運動器にかかわる理学療法士・作業療法士であれば「筋痛」に遭遇することは多いです。
筋痛とはなぜ起こるのか、筋痛がある状態で運動は行うべきなのか。
情報を整理したいと思います。
筋痛の特徴
皮膚痛(表在痛)とは異なり筋痛は比較的広い範囲で鈍い痛みとして知覚されます。
患者の表現としては「手のひらで患部をさするように」痛みのある部位を示すことが多い印象です。
まずは筋痛の特徴を確認しておきましょう。
筋痛(深部痛)の特徴 | |
痛みの性質 | 鈍い |
痛みの範囲 | 広い |
痛みの表現 | 不明瞭な鈍い痛み(aching、dullなど) |
関連痛を伴う頻度 | 多い |
慢性疼痛への移行頻度 | 高い |
治療の難易度 | 高い |
加齢による影響 | 大きい |
ストレスによる影響 | 大きい |
身体動作の制限 | 大きい |
QOLへの影響 | 大きい |
労働生産性への影響 | 大きい |
医療負担費(患者・社会) | 大きい |
(参考書籍:疼痛医学を参考に作成)
筋痛が起こる仕組み
あまり難しく考えずに、痛みがなぜ起こるのかについて整理します。
筋には侵害受容器が存在しAδ線維とC線維により脊髄へ伝達される。
当たり前ですが、痛みを感じるとは侵害受容器が反応しているということであり筋にも侵害受容器が存在している、ということです。
ただし、筋のAδ線維とC線維では皮膚のように明確な区別はなく、いずれも不明瞭な鈍い痛みを伝達するようだと考えられています。
これが皮膚痛(鋭い、狭い範囲などの特徴)との違いに関係しています。
機械受容器
筋の受容器は過度な圧迫や収縮、伸張、ねじれなどの機械刺激に応じます。
反応速度により便宜的に分類
低閾値機械受容器(low threshold mechanoreceptor:LTM)
→低閾値機械受容器は、筋への弱い伸張や軽い変形を伴う非侵害刺激レベルの機械刺激に応答
高閾値機械受容器(high threshold mechanoreceptor:HTM)
→高閾値機械受容器は、組織損傷を伴う侵害レベルの機械刺激に応答
化学受容器
運動による代謝産物や組織損傷に伴い筋痛が生じます。
この際に筋から漏れ出したり、内因性に産生される化学物質(ATP、ブラジキニン、セロトニン、サイトカイン、神経成長因子:NGFなど)が侵害受容器の興奮や感作を引き起こすとされています。
ポリモーダル受容器
ポリモーダル受容器(=多くの刺激に反応する受容器)とは、機械・化学・温度刺激のすべてに応じる受容器のことです。
ちなみにポリモーダル受容器は皮膚や内臓など全身に広く分布しています。
ポリモーダル受容器の働きは臨床的に非常に重要です。
【非活動性侵害受容器】
非活動性侵害受容器とは、通常は機械刺激に応答しないが炎症などの痛覚過敏の状態ではじめて活性化する受容器。
関節や皮膚、角膜、膀胱などで存在が報告されており筋にも存在すると想定されているが、まだ未解明な部分が多いとされている。
筋膜の役割
当たり前ですが筋・筋膜性腰痛に代表されるような「筋膜性」の疼痛についても侵害受容器が関係しています。
下腿筋膜や胸腰筋膜などの筋膜には侵害受容器が分布し、侵害受容を担う感覚センサー組織であると考えられています。
世の中では「筋膜リリース」が一般的に広く知られています。
個人的な印象としては、ゴリゴリに刺激を加えて満足している人が多いようですが、果たしてそれが良いのか疑問に感じます。
刺激量が強ければむしろ自分から侵害受容器の興奮を起こしているわけですし、結果的に悪い方向に作用するケースもあるのでは・・・。
まとめ
筋の受容器
- 過度な圧迫や収縮、伸張、ねじれなどの機械刺激に応じます。
- 運動による代謝産物や組織損傷に伴い筋痛が生じます。
- ポリモーダル受容器(=多くの刺激に反応する受容器)により機械・化学・温度刺激のすべてに応じます。
つまり、これらの受容器に反応する刺激の種類や量を考えながら理学療法・作業療法を展開しなければなりません。
例えば、代謝産物や組織損傷に対しては温熱による血液循環の促進も有効です。
このように筋痛を引き起こしている理由がわかれば患者の自己管理指導にも活かすことができますね。